残り物ほど濃い味がする食べ物はないと思う。
あれは確か輸入物の板チョコで、日本のスーパーではあまり見かけないパッケージに、読めない文字が書かれていた。
冷蔵庫の片隅に、いつからあったのかはわからないけれど、残りわずかな中身を包んで置かれてあったのだった。
子どもの頃、三年間だけ暮らした土地での出来事だった。
小学二年か三年かの頃だと思う。
あの日は友だちと、私を入れて三人で遊ぶ約束をしていて、家から自転車で数分の待ち合わせ場所に向かおうというところだった。
細かな事情は思い出せないけれど、そのとき家には私ひとりきりで、母も父も妹もいなかった。
出かける前に、こそっと冷蔵庫を開けてみて、その板チョコを見つけたのだった。
見慣れない包装紙をめくって、わずかに残されていた中身の、更に半分ほどを割って口に入れた。
状況によるものだろう、と今では思う。
あんまりおいしくて驚いてしまった、という記憶だけが残っている。
待ち合わせ場所についても、友だちはなかなか現れなかった。
二人はもう別の場所で遊んでるんじゃないかな。
心の片隅で思いながらも待って、待ち続けて、急にわっと自転車をつかんで家に引き返した。
バタバタ家の中を歩き回った後、最後に冷蔵庫に向かい、さっき少しだけ残しておいたチョコレートを全部食べてしまうと、ぐっしゃり湿った包装紙をゴミ箱に捨てた。
もう一度待ち合わせ場所に戻ると、間もなく約束していた二人も現れた。
なんともなさそうな、カラッとした表情で、もしかすると私がただ待ち合わせの時間を間違えていただけかもしれなかった。
それからは疑いもチョコレートの味も忘れて、三人で日が暮れるまで遊んだ。
過ぎてしまえば、なんてことはない。
そんな出来事で、あのチョコレートの味は今も思い出せない。
だけどあの一連の行動の不可解さと、刻まれた感覚が、時折鮮烈によみがえってくる。
あれは子どもの頃、三年間だけ暮らした土地での出来事。
意図せずに齧ってしまった、銀紙の味だ。